ITストラテジスト午後I 事例記述平成28年 秋期
大問 1問1 大学の業務及び情報システムの統合
テーマ:大学の法人化と統合に起因した業務及び情報システムの統合計画
長文事例本文
問1 大学の業務及び情報システムの統合に関する次の記述を読んで,設問1〜3に答えよ。
A県は,県内に三つの県立大学(A大学,B大学及びC大学。以下,3大学という)を設置・運営している。3大学は,設置目的,教育・研究分野,組織体系及び規模がそれぞれ異なっており,教育及び研究に必要な業務システム(以下,業務システムという)と,それらを支える情報処理基盤,ネットワーク,セキュリティシステムなど(以下,システム基盤という)を独立して構築し,運用してきた。
A県では,公立大学を取り巻く環境変化への対応と,教育・研究内容の高度化及び多様化を目指して,3大学を統合し,公立大学法人A県立大学(以下,新法人という)を設立して,新法人が運営する一つの大学(以下,新大学という)とする構想(以下,統合構想という)を策定した。
3大学の業務及びシステム基盤を維持管理する情報システム部門(以下,情報システム部門という)の責任者で構成される統合検討会議では,統合構想を受けて,業務及び情報システムの統合計画(以下,統合計画という)の策定に着手した。
〔現状の業務及び情報システム〕
情報システム部門では,統合計画の策定に向けて,3大学の業務及び情報システムの調査を行い,表1のとおりに整理した。
表1 統合対象の業務及び情報システムの一覧
3大学の業務システムは,それぞれの大学の事務局の職員の指導の下,各大学の状況に合わせて構築されており,業務手順,処理方法,データ構造が異なっている。特に,財務会計システム及び人事給与システムは,3大学で適用している会計規程,人事規程の違いによってシステム機能が大きく異なっている。
各大学のLAN(以下,大学LANという)は,事務用LAN,授業用LAN及び研究用LANで構成され,それぞれ独立して構築,運用されている。研究用LANは,教育用・研究用の実験機器やサーバが設置されており,A県や大学のNWポリシでは認められていないプロトコルの通信実験などを行っており,情報系学科の教員が構築し,運用している。教員の中には,大学間で兼務している者もいる。全ての大学の教職員はB県の地域IP網を経由してSNET(学術情報ネットワーク)に接続している。
〔統合方針の策定〕
統合検討会議では,調査結果を基に,新法人の設立に向けた統合方針を表2のとおり定めた。
表2 統合方針
1. 段階的統合方針
・第1段階(新法人設立時):新法人の業務及び情報システムとして最低限必要な統合を行う。各大学の既存の業務及び情報システムは,新法人設立後も継続して運用する。業務の見直しは最小限に抑える。
・第2段階(新法人設立の2年後):新法人の業務手順を統一し,情報システムを全社統合する。
2. コスト削減方針
・業務システム及びシステム基盤の重複を解消し,運用保守費用及び将来の更新費用を削減する。
3. セキュリティ向上方針
・新法人全体のNWポリシ及びセキュリティポリシを策定し,情報漏えいなどのリスクを低減する。
〔業務・情報システム統合計画の策定〕
統合検討会議では,表2の統合方針に基づき,業務・情報システム統合計画を作成した。
1. 第1段階の計画
(1) 財務会計業務及びシステムの対応
新法人としての財務諸表を作成するために,新法人の財務諸表と,①各大学の勘定科目,予算科目間の対応関係を整理する。各大学の既存の財務会計システムから抽出したデータを,新法人の財務諸表の形式に変換して集計する統合会計ツールを新たに作成する。
(2) NWシステム及び認証機能の整備
3大学の大学LANを安全に相互接続するために,SNETを経由したVPN(仮想専用網)を構築する。
教員が兼務する大学間での移動時にも,自大学の研究用LANや事務用LANに安全にアクセスできるように,②認証機能の統合とアクセス制御の見直しを行う。
認証機能の統合に当たっては,人事給与システムから教職員の基本情報を抽出し,共通の認証データベースに連携させる。
2. 第2段階の計画
第2段階では,業務手順の統一と情報システムの全社統合を行う。対象業務と実施内容は表3のとおりである。
表3 業務・情報システム統合計画の第2段階
・NWシステム:全大学のLANを単一のNW基盤に統合する。研究用LANの運用については,セキュリティを確保しつつ,教員の自由な研究活動を妨げないように留意する。
・財務会計システム:新法人の統一会計規程に基づき,新財務会計システムを導入する。
・人事給与システム:新法人の統一人事規程に基づき,新人事給与システムを導入する。
・教務情報システム:新大学の統一カリキュラムに基づき,新教務情報システムを導入する。
・グループウェア:電子メール,スケジュール管理,掲示板などを全学で統一する。
〔計画の評価と見直し〕
作成した統合計画について,A県及び3大学の幹部から意見を聴取した。
大学の事務局幹部からは,「第1段階では業務の見直しを行わない方針であるが,電子メールのアカウント発行処理が遅れると,非常勤講師や臨時職員の着任時に支障が生じる」との指摘があった。これに対し,統合検討会議では,第1段階において,③電子メールアカウントの自動発行機能を先行して整備することとした。
また,A県幹部からは,「第2段階の業務手順の統一において,各大学の事務局の協力が得られないと計画が遅延するおそれがある」との懸念が示された。これを受けて,統合検討会議では,体制を見直し,④事務局のキーパーソンを各作業グループのリーダーとして委嘱することとした。
設問 & IPA公式解答例
設問1 (1)制限字数:30 字以内
〔業務・情報システム統合計画の策定〕について,本文中の下線①を行う目的は何か。30字以内で述べよ。
【IPA公式解答例】
新法人の財務諸表と各大学の勘定科目,予算科目間の対応
採点重要キーワード:新法人の財務諸表各大学の勘定科目予算科目間の対応
設問1 (2)制限字数:15 字以内
本文中の下線②で,NWシステムの再構築における認証機能の整備に当たって,連携すべき情報は何か。15字以内で述べよ。
【IPA公式解答例】
学部LANの詳細なNW構成情報
採点重要キーワード:学部LANNW構成情報
設問1 (3)制限字数:25 字以内
第2段階の計画において,研究用LANの運用方法について配慮すべきことは何か。25字以内で述べよ。
【IPA公式解答例】
研究用LANの運用方法
採点重要キーワード:研究用LAN運用方法
設問2 (1)制限字数:35 字以内
第1段階で電子メールのアカウント発行処理を自動化しなかった場合に生じる懸念は何か。35字以内で述べよ。
【IPA公式解答例】
人事給与システムの人事情報
採点重要キーワード:人事給与システム人事情報
設問2 (2)制限字数:35 字以内
第2段階で業務手順の統一を先送りした場合に生じる問題を 35字以内で述べよ。
【IPA公式解答例】
A大学の臨時職員や非常勤講師の電子メールアカウントを適時に発行できない。
採点重要キーワード:A大学の臨時職員非常勤講師
設問2 (3)制限字数:35 字以内
第2段階で教務情報システムの統合を行わない場合に生じる問題を 35字以内で述べよ。
【IPA公式解答例】
業務が統一されず,教務情報や学納金の管理業務が複雑になる。
採点重要キーワード:業務が統一されず教務情報
設問3制限字数:35 字以内
〔計画の評価と見直し〕について,本文中の下線④のように体制を見直した理由は何か。35字以内で述べよ。
【IPA公式解答例】
業務手順の検討には,情報システム部門以外の事務局の職員の参加が必要だから
採点重要キーワード:業務手順の検討情報システム部門以外事務局の職員の参加が必要
【出題趣旨】IPA公式発表
IT ストラテジストには,経営戦略の実現に向けて,事業の制約などを考慮して,情報技術を活用した事業戦略,情報システム戦略及び情報システム化計画を策定する能力が求められる。
本問では,大学の法人化と統合に起因した,業務及び情報システムの統合を題材として,業務及び情報システムの統合計画策定に関する能力を評価する。具体的には,統合計画の実施に向けた準備事項,統合計画で考慮すべきこと,統合計画の検討体制の見直しの理由を問う。
【採点講評】IPA公式発表
問1 では,大学の業務及び情報システムの統合について出題した。題意や状況設定は,おおむね理解されているようであった。
設問1(1)では,新法人としての会計業務手順の整備を求める解答が一部に見られた。統合計画の第1 段階では,業務の見直しは最小限に抑える方針であることを踏まえて,新法人の財務諸表と,各大学の勘定科目,予算科目間の対応関係を整理する必要があることを読み取ってほしかった。
設問3 は,正答率は高かったが,大学の事務局幹部から意見があったことを理由に挙げた解答が一部に見られた。意見を単に受け入れるのではなく,その背景を考え,問題解決に向けた取組みを進めることの重要性を理解してほしい。
IT ストラテジストは,経営戦略や事業上の制約を考慮して,情報化計画を策定する能力を高めてほしい。
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