ITストラテジスト午後I 事例記述令和7年 春期
大問 3問3 ドラッグストアにおける IT を活用した新規サービス立ち上げ
テーマ:ドラッグストアのCX向上と地域密着・オンライン融合サービス(健康生活アプリ)
長文事例本文
問3 ドラッグストアにおける IT を活用した新規サービス立ち上げに関する次の記述を読んで,設問に答えよ。
C 社は,K 地域を中心に大型駐車場を備えた大規模店舗を構えるドラッグストアチェーンを展開している。C 社の展開するドラッグストアは,調剤薬に加え,化粧品と,洗剤,衛生用品,文房具など(以下,日用品という)と,冷凍食品,飲料,お菓子など(以下,食料品という),を中心に様々な生活必需品を取り扱っている。
これまで C 社は,K 地域にある生活必需品の仕入先と密接なコミュニケーションを行い,強い協力関係を築いてきた。
〔K 地域の環境〕
K 地域の住民の多くは自然環境に恵まれた郊外に住んでいる。K 地域の郊外は古い住宅地が多く,多くのシニア世代が長年住んでいる。さらに,昨今のワークスタイルの変化を見据え,集合団地のリノベーションなどが行われており,若い世代の流入も増えている。昨今 K 地域の住民は,日常の用事をできるだけ自宅から近距離かつ 1 か所で済ませたいという希望が強く,この希望を満たす企業は顧客を囲い込める可能性が高い。また,シニア世代やシニア世代をサポートする住民からは,高齢化によって,服薬指導に限らず,病気やけがによる入退院時などの生活シーンに合わせた健康相談をしたいといった社会的ニーズが高まっている。
K 地域の郊外に医療機関は少なく,郊外に住む住民のほとんどは都市部の医療機関で受診している。また,気軽に健康相談を行える場所が K 地域の郊外にない。
〔C 社の戦略〕
C 社は“地域住民の健康的な暮らしを支える社会インフラとなる”を企業理念として,次の戦略に従い企業活動を行うことによって,K 地域で売上を拡大してきた。
(1) 出店に関する戦略
自動車を利用し 5 分程度で来店できるように,C 社が自ら分割した範囲(以下,小商圏という)の中心付近に店舗を出店している。これによって小商圏内の顧客が日常生活で必要な様々なものを,自宅の最寄り店舗で購入できるようにしている。
C 社は,日用品や食料品を特売に頼らず日常的に低価格で提供することによって顧客の来店頻度を高めている。併せてドラッグストア業界では比較的商益商材である化粧品などを購入してもらうことによって,顧客 1 人当たりの収益性を高めている。
(2) 調剤薬の販売に関する戦略
店舗では,併設する調剤売場で調剤薬の販売を行っている。顧客は調剤売場で処方箋を提出し,待ち時間を利用して小売売場で日用品や食料品などを買い揃えた後に調剤売場に戻り,調剤薬を受け取ることができる。これによって時間を有効に使うことができると好評で,都市部の医療機関を受診後,帰宅途中に自宅の最寄りの店舗に立ち寄る顧客が多い。C 社は,顧客が医療機関から入手した処方箋の画像を事前に送信するサービスをいち早く活用するなど,IT 活用にも積極的である。
(3) 小売売場の業務の運営に関する戦略
C 社の小売売場では,全店舗で次のような業務標準化を推進している。
・売場レイアウトや棚割りなどは全店舗で標準化し,小売売場の業務運営を統一する。
・各店舗の POS の売上情報から,自動発注システムを活用して本社で一括発注した商品を各店舗へ配送する。
こうした取組みによって,専門知識のない店舗スタッフでも小売売場の業務の運営を効率的に行うことを可能とし,それによって,空いた時間でこれまで以上に顧客対応に時間を割くことができている。
(4) 商品開発や企画に関する戦略
最近では,K 地域にある強い協力関係にある仕入先のうち,オーガニック素材にこだわる食品メーカーなどと共同でプライベートブランド商品(以下,PB 商品という)を開発している。また,化粧品メーカーとの一部店舗での期間限定共同イベントとして,化粧品メーカーの販売員が,顧客にメイクアップ体験指導を行ったりしている。C 社はこのような仕入先の特長を生かした共同企画を実施し高い評判を得ている。
〔C 社の課題〕
これまで C 社は,これらの戦略に従って K 地域の売上を拡大してきたが,最近では,ほかのドラッグストアチェーンが出店地域を K 地域の近郊まで広げているので,戦略強化が必要となっている。戦略の強化に当たって C 社は,店舗での顧客ニーズへの対応に関する課題を整理した。
(1) 調剤売場の課題
調剤売場では,顧客から“同居者の看護を適切に行えるようにするために,服薬指導を自宅で本人と一緒に聞きたい”,“疾病を予防するためにも,自身の生活習慣の改善につながる情報が欲しい”などのニーズがある。また,薬剤師は,調剤するときには,過去の薬歴,飲み合わせや保存方法の注意点など様々な確認を行う必要がある。これは,業務負担が大きく,かつ時間が掛かるため混雑時に顧客を待たせることがある。これらへの対応が必要である。
(2) 小売売場の課題
小売売場では,若い世代を中心に,商品そのものへのニーズではなく,生活の質を高めたいという,次のようなニーズが増えており,対応が必要である。
・健康の増進や体形の維持・改善につながる情報が欲しい。
・日々の生活を楽しむために,素材にこだわった化粧品を使いたい。また,肌の状態や年齢などの違いを考慮した正しいスキンケアや化粧の方法が知りたい。
〔新たな方針と施策〕
これらの課題に対応するために,C 社は戦略を強化する新たな方針を“地域の社会的なニーズや顧客ニーズに合わせたサービスを提供し,顧客のライフタイムバリュー(LTV: 顧客生涯価値)を拡大する”と定めた。この方針を受け,C 社は,店舗でのリアルなサービスとオンラインでのサービスを融合して顧客体験価値(CX)を高めながら,薬剤師の業務負担も軽減することとし,次の二つの施策を実施することとした。
(1) 店舗で調剤薬を販売することに加え,都市部の医療機関を受診する顧客の通院中及び在宅経過観察などのプレ・アフターホスピタルにおける薬剤師による服薬指導や残薬管理,管理栄養士による栄養指導などの健康相談といったサービスを店舗でもオンラインでも提供する。
(2) 仕入先と協力して,顧客ニーズに合わせたサービスを提供することによって,顧客の LTV を拡大する。
施策の実施に向け C 社は,次のシステムを構築し,活用することとした。
・顧客が生き生きと健康的に生活することを支援する健康生活支援アプリケーションシステム(以下,健康生活アプリという)
・薬剤師の業務負担を軽減する服薬指導補助システム
〔健康生活アプリ〕
地域の社会的ニーズや顧客ニーズに合わせたサービスを提供するためのアプリケーションシステムである。健康生活アプリが顧客に提供する機能は次のとおりである。
(1) オンラインサポート機能
オンラインによる服薬指導や残薬管理,及び健康相談を行う機能である。
顧客は,オンラインサポートの予約を行い,予約した時間に来店することなく,リモートで薬剤師による服薬指導や残薬管理,管理栄養士による栄養指導などの健康相談といったサービスを受けることができる。
(2) ヘルスケアアドバイス機能
健康維持などに関するアドバイスを行う機能である。
顧客は,健康生活アプリを利用し心拍数や体表面温度,歩数記録や食事記録(以下,行動情報という)を記録する。情報を記録する際,顧客は C 社からレンタルした専用のデバイスを使って自動行動情報を記録する方法か,自身が持つデバイスで管理する行動情報を登録する方法を用いる。
顧客は,記録した情報から AI がスコーリングした健康状態や予測した健康リスク,生活習慣改善や体形の維持・改善につながるコメント,おすすめのサプリメント,K 地域の食品メーカーと共同で開発した PB 商品を使ったレシピなどの情報を入手する。
顧客は,AI チャットボットによる健康維持に関する助言を受けることもできる。
(3) ビューティアドバイス機能
最適なスキンケア及びメイクアップの方法並びに化粧品を提案する機能である。
顧客は,顔写真を撮り,自身が抱える肌の悩みや化粧の希望などを登録する。
AI を活用した骨格診断や肌診断に合わせたスキンケア,化粧のポイントなどの情報を入手したり,おすすめの商品のレコメンドを受けたりする。気に入った商品があればオンラインで C 社から購入することができる。
顧客は AR(Augmented Reality: 拡張現実)メイク機能を用いて,商品を利用したメイクを疑似体験できるほか,スキンケアのやり方のナビゲートを受けたり,メイクのコツやスキンケアの動作に対するアドバイスを受けたりする。
また,店舗で行われる K 地域の化粧品メーカーと共同の期間限定メイクアップ体験イベントの予約もできる。
〔服薬指導補助システム〕
調剤売場で薬剤師が行う調剤や服薬指導を支援するシステムである。服薬指導補助システムは,調剤売場で入手した処方箋データや過去の服薬履歴などの情報から薬効重複チェックや服薬指導コメントの作成を行う。薬剤師は,服薬指導補助システムの情報を参考に調剤及び服薬指導を行う。
設問 & IPA公式解答例
設問1 (1)制限字数:20 字以内
〔C 社の戦略〕について,C 社が小商圏の中心付近に店舗を出店する戦略をとる狙いは何か。20 字以内で答えよ。
【IPA公式解答例】
K 地域の顧客を囲い込む狙い
採点重要キーワード:K地域顧客を囲い込む
設問1 (2)制限字数:35 字以内
小売売場の業務の運営に関する戦略において,C 社は業務標準化を推進することによってどのような成果を狙ったか。35 字以内で答えよ。
【IPA公式解答例】
業務運営を効率的に行い,顧客対応に時間を割くことができる成果
採点重要キーワード:業務運営を効率的顧客対応に時間を割く
設問2制限字数:30 字以内
〔新たな方針と施策〕について,C 社が顧客体験価値(CX)を高めることとした背景は何か。小売売場の観点で,30 字以内で答えよ。
【IPA公式解答例】
商品ではなく,生活の質を高めたいニーズが増えている状況
採点重要キーワード:生活の質を高めたいニーズが増えている
設問3 (1)制限字数:35 字以内
〔健康生活アプリ〕について,C 社が,オンラインサポート機能を提供するの,施策のどのような部分を実施するためか。35 字以内で答えよ。
【IPA公式解答例】
プレ・アフターホスピタルのサービスをオンラインでも提供すること
採点重要キーワード:プレ・アフターホスピタルサービスをオンラインでも提供
設問3 (2)制限字数:35 字以内
C 社は,ヘルスケアアドバイス機能を提供することによってどのような顧客のニーズを満たすことができると考えているか。35 字以内で答えよ。
【IPA公式解答例】
健康の増進や体形の維持・改善につながる情報が欲しいというニーズ
採点重要キーワード:健康の増進体形の維持・改善情報が欲しいというニーズ
設問3 (3)制限字数:35 字以内
C 社がビューティアドバイス機能を提供する上で活用する C 社の強みは何か。35 字以内で答えよ。
【IPA公式解答例】
仕入先の特長を生かした高い評価を得ている共同企画を実施できること
採点重要キーワード:仕入先の特長を生かした高い評価を得ている共同企画
設問4制限字数:40 字以内
〔服薬指導補助システム〕について,C 社は,服薬指導補助システムを構築することによって,どのような問題を解決しようと考えているか。40 字以内で答えよ。
【IPA公式解答例】
業務負担が大きく,かつ時間が掛かるため混雑時に顧客を待たせることがある
採点重要キーワード:業務負担が大きい時間が掛かる混雑時に顧客を待たせる
【出題趣旨】IPA公式発表
IT ストラテジストには,業種ごとの事業特性を踏まえて,経営戦略の実現に向けた IT を活用した事業戦略を策定・推進する能力が求められる。
本問では,ドラッグストアにおける IT を活用した新規サービスの立上げを題材として,基本戦略の策定・推進を行う能力を評価する。具体的には,地域社会や店舗におけるニーズや課題の把握,解決施策の検討,IT を活用した施策の実行ついて,実務能力を問う。
【採点講評】IPA公式発表
問 3 では,ドラッグストアにおける IT を活用した新規サービス立上げについて出題した。全体として正答率は平均的で,状況設定はおおむね理解されているようであった。
設問 1(1)は,正答率がやや低く,“近距離で用字が済ませられる”といった解答が見受けられた。これは,単なる顧客の希望であり,C 社が小商圏の中心付近に店舗を出店する戦略をとる狙いについて解答してほしい。
設問 3(1)は,正答率がやや低く,“都市部の医療機関を受診する顧客の通院などをサポートする”といった解答が見受けられた。C 社が店舗でのサービスとオンラインでのサービスを融合して顧客体験を高めている具体的な内容が何であるかを読み取り解答してほしい。
IT ストラテジストは,業種ごとの事業特性を踏まえて,経営戦略の実現に向けた IT を活用した事業戦略を策定,推進する能力を高めてほしい。
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